
2025.8.14
「設計監理方式」で大規模修繕工事を成功させるには~「設計監理方式」のメリット・デメリット~
現在、大規模修繕工事の発注方式として、「設計監理方式」が広く採用されています。
マンションを所管する国土交通省も、『マンションの大規模修繕工事に関するガイドライン』の中で、「設計監理方式は、品質確保の観点から望ましい方式であり、発注者である管理組合に対して中立的な立場で技術的支援を行う設計監理者の存在が重要である」としています。
このように、国土交通省からも一定の評価を受けている「設計監理方式」ですが、そのメリットとデメリットを正確に理解している方は、意外と少ないかもしれません。
本記事では、設計監理方式のメリットとデメリット、そして「設計監理方式」で行う大規模修繕工事成功のためのポイントについて、わかりやすく説明します。
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1.大規模修繕工事の発注方式とは
大規模修繕工事の発注方式とは、マンションの大規模修繕工事を「誰に」「どのように」依頼するかを決める方法のことです。
発注方式には大きく3つの種類があります。
・責任施工方式
設計から施工までを、ひとつの事業者(工事事業者や管理会社等)に一括で任せる方式
・設計監理方式
設計および工事監理を設計事務所(コンサルタント)等に依頼し、施工は別途、工事事業者に発注する方式
・CM(コンストラクション・マネジメント)方式
複数業者との契約・調整をCM会社が代行しながら、組合の立場に立ってプロジェクト全体をマネジメントする方式
それぞれの発注方式には、メリット・デメリットがあります
ここでは、「設計監理方式」について詳しくご紹介します。
設計監理方式の流れについては、▶コラム「大規模修繕工事の進め方」をご参照ください。
2.「設計監理方式」のメリット・デメリット
近年、大規模修繕工事における最も一般的な発注方式となっている「設計監理方式」のメリットとデメリットは、下記の通りです。
・メリット
①設計・管理を担う専門家が、組合の立場でチェックすることで、設計通りの施工品質が確保されやすい。
②見積内容の精査や工事事業者選定において、専門家によるサポートが受けられるため、価格や内容の妥当性が確認しやすい。
③専門家が入ることで、紛争やクレームなどのトラブル防止が期待できる。
④設計段階から長期的視点の計画が立てやすく、”次回の大規模修繕”まで見据えた仕様の検討が可能になる。
長期視点での計画を立てるには、▶コラム「大規模修繕工事前の長期修繕計画見直しのススメ」をご参照ください。
・デメリット
①設計監理を委託する設計事務所(コンサルタント)の能力や経験が十分にないと、期待した効果を得ることができない恐れがある。
②設計監理業務の報酬が別途発生し、工事費用が割高になる可能性がある。
③組合が意思決定する機会が多くなり、負担となる恐れがある。
まとめ
メリット | デメリット |
・品質の確保 ・妥当性、透明性の向上 ・トラブル防止 ・長期的視点の計画が立てやすい | ・コンサルタントの能力に工事の成否が左右される ・費用が割高になる恐れがある ・組合が意思決定する場が多くなり、負担となる恐れがある |

3.「設計監理方式」が選ばれる理由
先にご説明したように、「設計監理方式」にはデメリットもあるものの、多くの組合で大規模修繕工事の発注方式として選ばれています。
その主な理由は、設計監理業務を工事事業者とは別に契約するため、組合側に立った設計や監理が行えることにあります。
加えて、以下のような利点も評価されているポイントです。
・事前に詳細な仕様書を作成した上で見積を取得するため、不透明な追加費用が出にくい。
・工事中の監理を専門家が行うため、手抜き工事や設計と異なる施工を防止しやすい。
・素人では判断が難しい部分について、説明や提案を受けられる。
ただし、「設計監理方式」を採用すれば、これらの利点を必ず得られるというわけではありません。
4.「設計監理方式」を選択しただけでは安心できない
さまざまなメリットがあり、多くの管理組合で採用されている「設計監理方式」ですが、この方式を採用しても大規模修繕工事に関するトラブルが発生しています。
国土交通省は、設計監理の設計事務所(コンサルタント)選定について、下記警鐘を鳴らしています。
国交省による警告
「一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う工事事業者が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している。」
(参照:設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知))
このように、「設計監理方式」を選択したとしても、適切な大規模修繕工事が実施できるとは限らないのです。
ある管理組合では、「設計監理方式」で大規模修繕工事を進めました。設計が完了し、設計事務所が推薦した工事事業者から見積もりを取得したところ、提示された金額は修繕積立金を大きく上回るものでした。このため、管理組合は設計事務所に工事内容の見直しや相見積もりの取得を求めましたが、希望は十分に反映されませんでした。やむを得ず設計監理契約を解除し、別の工事事業者から見積もりを取得したところ、大幅なコスト削減が実現したのです。
ここで注目すべきは、解約した設計事務所は「相見積もり」や「コンペ(比較選定)」を経ず、特命で選ばれていたという点です。
たとえ「設計監理方式」を採用していても、管理会社や元理事長、あるいは特定の組合員からの紹介や推薦だけで事業者を決めてしまうと、期待した効果が得られないばかりか、工事費が割高になるリスクが高まります。
”適切な工事発注の確保”に関する課題については、▶コラム「進むのか?!国による大規模修繕工事の管理組合サポート」をご参照ください。

5.「設計監理方式」の大規模修繕工事を成功させるには
「設計監理方式」を採用した大規模修繕工事の成否は、コンサルタント選定にかかっている!といっても過言ではありません。
先日も「所有者以外の人物が大規模修繕工事の委員会に紛れ込んでいた」という新聞記事が掲載されました。設計監理に採用したコンサルタントと特定の工事会社の癒着が疑われています。
このような不正やトラブルを未然に防ぐためには、慎重にコンサルタントを選定する必要があります。しかし、専門知識のない管理組合が適切な判断を下すことは簡単ではありません。
私がお聞きする大規模修繕工事についての悩みの多くが「設計監理(コンサルタント)をどう選べばいいかわからない」というものです。実際、組合が独自に設計事務所から複数の相見積もりを取り寄せても、最終的にどこを選べばよいか判断できない、というのです。
そこで、その問題を解決する策の一つとして、私はマンション修繕なびが提供する「設計事務所(コンサルタント)マッチング・サービス」を、おすすめしています。このサービスは、管理組合のリスクを軽減し、適正なコンサルタントの選定に有効です。このようなサービスが、これからのスタンダードになると、予想しています。
コンサルタントの選び方などについては、
▶コラム「大規模修繕工事におけるコンサルタントの役割と選び方」
▶コラム「大規模修繕工事のパートナー!コンサルタントの重要性」
をご参照ください。

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いかがでしたか?
大規模修繕工事において、「設計監理方式」を採用するだけでは万全とは言えないことを、ご理解いただけたと思います。
とはいえ、現時点では「設計監理方式」は他の発注方式と比べてメリットがあり、実際に多くの管理組合で採用されています。重要なのは、この方式の短所やトラブルの事例を知り、あらかじめ適切な対策を講じることです。
そうすることで、大規模修繕工事を成功へと導くことが可能になるのです。
マンション修繕なび では、大規模修繕工事の専門家や工事事業者とのマッチングサービスを通して、管理組合運営のお手伝いをしています。相見積もり取得や勉強会の開催などにもご活用ください。

マンション管理
コンサルタント事務所
代表 大野 かな子
(マンション管理士)
国内メーカー勤務後、大手管理会社でマンション担当者として勤務。
これからのマンション管理には、“管理会社管理”や“自主管理”とは異なる第三の選択肢が必要と考え、マンション管理組合に対する管理ノウハウを提供し実務を支援する「ちいさな管理」を立ち上げる。
(株)ビル新聞社が発行する「ビル新聞」へマンション管理コラムを連載中。
マンション管理の専門家として、マンション管理に関する市場調査レポートを発表している。
ちいさな管理ホームページ:
https://s-kanri.com
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